(昨日の続き)
釧路空港は、見違えるほど綺麗になっていた。
レンタカーを借り海側へ向かう。
38号線は、よく瞳とドライブしたルートだったので、そこを走ってから、釧路市内に入りたかった。
ナナコ「すごい、霧だね。」
クロサワ「釧路はこの時期よくガスるんだよ。」
*霧の事を釧路ではガスといっていた。
釧路市内に入ると、すべてが当時のままという気がした。
幣舞橋(ぬさまいばし:釧路川にかかる市内で有名な橋)を渡る頃には、想い出で胸が熱くなってしまった。
ナナコ「瞳さんとは、いつ会うの?」
クロサワ「・・・」
ナナコ「まだ、約束してないの?」
クロサワ「・・・」
当時の思い出が頭の中をクルクルと回り出す。
クロサワは、車を停めた。
ナナコ「どうしたの? 何も、しゃべってくれない・・・」
クロサワ「この場所は、俺と瞳が初めて会った場所なんだ。」
ナナコ「ここに来るの?」
クロサワ「ここに停まっていれば、、、もう一度、逢える気がする・・・」
ナナコ「えっ?」
クロサワ「もう一度、この場所に来て、待っていたかった。。。。」
ナナコ「瞳さんは?」
クロサワ「瞳は・・・、もう、この世には、いないんだよ。」
ナナコ「ええええっ!」
釧路のあの夜、オレンジボックスで話した瞳とは
会わないまま、クロサワは東京に帰った。
当時、○○高校(釧路では有名な進学校?)に通っていた瞳は、電話は掛けていたが実際に会ったことはなかったらしい。
なので、当日深夜にクロサワと会うことに、相当なタメライがあったと言うのだ。
やがて、瞳からクロサワの携帯によく電話がかかる様になっていた。クロサワも、瞳からの電話を楽しみにしていて、打ち合わせ中でも、「今、丁度ひましてたぁーっっっ。」とか言って、携帯の電池がなくなるまでしゃべっていた。
1ケ月を過ぎたぐらいで、気がつくと瞳からの電話が来なくなっていた。
気になるが、瞳の電話番号を聞いていない。
やがて、毎日の忙しさに、瞳の事も忘れかけていたある日の電話。
クロサワ「もしもし?」
瞳「あっ もしもし。」
一言で、瞳の事を思い出した。
クロサワ「瞳ちゃんでしょ?どうして、電話くれなかったの?」
瞳「覚えていてくれたの?」
クロサワ「あたり前じゃん。俺、電話番号聞いてなかったから、掛けたくても掛けられなかった。」
瞳「そっか。」
クロサワ「今日も、電池なくなるまで、OKだよ」
瞳「・・・」
クロサワ「どうしたの?」
瞳「今日は・・・、最後の電話と思って・・・。」
クロサワ「えっ?どうしたの?」
瞳「ヒカルちゃんと、いっぱいお話しして、逢いたいけど、、、遠くて逢えないし、淋しいから、今日で最後にする。」
クロサワ「そっかぁ・・・」
瞳「でも、もし・・・」
クロサワ「?」
瞳「来年、東京の大学に入ったら、逢える?」
クロサワ「ああ、いつでも、OKだよっ。」
瞳「それじゃあ、忘れないでね。。。」
クロサワ「じゃあね・・・・。」
瞳「・・・・」
クロサワ「・・・・」
お互い、電話が切り辛かった。無言のまま時間がたった。
クロサワ「逢おうか?」
瞳「・・・うん。・・・逢いたい。」
クロサワ「じゃあ、次の休みに釧路に行くよ。」
瞳「えっ? 本当!」
次の休みにクロサワは釧路に行った。
レンタカーを借りて、指定の場所に向かう。
車を停めて待っていると、コンコンと窓ガラスを叩かれた。
クロサワ「あ、初めましてぇ。どうぞ」
瞳「はい。」
車に乗り込んできた瞳の第一印象は、みすぼらしかった。
ただ、せっかく釧路まで来た事を考えると、とりあえず頂いてから帰ろうと思った。
クロサワ「どこに行く?」
瞳「はい、どこでも。」
クロサワ「じゃあ、この近くのホテルは?」
瞳「えっ。?」
恥ずかしそうにしていたが、待ち合わせの場所から近いところにあるホテルを聞き出して、そこに入った。
瞳は先にシャワーを浴び、クロサワが出て来た時は、部屋の電気を消してベッドに入っていた。
足元から、ベッドにもぐり込むと、体を緊張させた瞳がいた。
クロサワは、優しく抱きしめて、キスをした。
クロサワ「瞳。逢いたかったよ。」
瞳「私も。」
そう言うと、瞳はクロサワに抱きついてきた。
クロサワは、たっぷりと時間を掛けて愛撫した。
瞳「こ、こんなの、はじめて。。。」
瞳「ああぁぁ。」
瞳「いやっ、、、、っ」
愛撫だけで何度も行ってしまい、十分すぎる潤いの中、クロサワは、電気を明るくしようとした。
瞳「いや、暗くしておいて」 手で顔を隠す瞳。
クロサワ「瞳の顔を見ながら、いきたい。いいだろ?」
瞳「・・・恥ずかしい。」
クロサワ「手をどけて。。。」
薄明かりの中、メガネを外した瞳は、かわいかった。
クロサワ「入れるよ。痛かったら、言ってね」
瞳「うん。」
瞳の肌は木目細やかで、透き通る様に白かった。
その白い肌が上気して、ピンクがかリ、クロサワに吸い付く様に密着してくる。
お世辞抜きで、本当に抱き心地のいい体だ。
東京に帰ってから、瞳の事が忘れられなくなった。
時間を見つけては、瞳に電話かけて長話をする。
ただ、瞳からかけて来る事はないが、いつも電話の傍で待っている様な気がする。
距離が離れていると、愛しさも増すものか、お互いに逢いたい気持ちが日々日々増す。
クロサワも、時間を見つけては釧路に行く様になっていた。
瞳は、家の都合で進学を諦めて、高校卒業と同時に働き出していた。
クロサワも、釧路で車を買って瞳のアパートで暮らす様になっていた。
たまに仕事で、東京に行くという生活になった。
ある時、腕枕の中で、瞳が聞いてきた。
瞳「私、お嫁さんになれるかなぁ・・・」
クロサワ「ああ、瞳はいいお嫁さんになれるよ」
瞳「ヒカルちゃんも、いい旦那様になりそう。ふふっ。」
クロサワ「・・・」
「結婚」というのが、頭をよぎり、なぜか引いてしまった
その、クロサワの雰囲気を感じ取った瞳が、心配そうに尋ねた。
瞳「私たち、付き合ってんだよね?」
クロサワ「そうだよね。正式に言ったことはないけどね。はははっ」
瞳「よかったぁ。」
瞳「でも、もしさあ、私たち、別れるとしたらどんな時?」
クロサワ「うーん。わからないなぁ。」
瞳「じゃあ、もし、私の事が許せないって事はどんな事?」
クロサワ「そうだなぁ、、、。俺と付き合っているのに他の男と寝る女は嫌だなぁ・・・」
クロサワは、自分の事を棚に上げて、何の気なしに答えた。
瞳「ふーん。それじゃ、お休み。」
今、考えると瞳はそれから元気がなくなり、気まずいまま東京に戻った。
つづく