何年か前の暮れ、東京に初雪が降った日。
帰路を急ぐクロサワの携帯が鳴った。
女「私、誰だか分る?」
最近は番号通知があるので、あまりなくなったが、こういう電話の掛け方をする女性はかなり多い。(私宛には・・・)
声で分って欲しいというのが女性心理なのでしょうか?
こういう場合、間違いは絶対に禁物である。。
そんな時、声色を変えて、
クロサワ「ちょっとまってください。私、アシスタントなんで、どちら様でしょうか?」
と、私は応戦する。(私は監督だが、一人二役をこなす、アクターにもなる。)
女「あっ、私は加古と申します。」
(私の携帯は、アシスタントが出る場合も多いので、相手はすんなり名乗る)
クロサワ「加古様ですね。お待ちください」
と、時間をかせぎつつ、記憶を辿る・・・。
もしかして?。彼女の声と、撮影シーンの顔が、頭の中で一致した。
クロサワ「はーい。クロサワです。」
加古「あっ、もしもし! わかりますか?」
クロサワ「おお!わかるよって! どうしたの何年ぶりかなぁ~!」
加古「嬉しい!。覚えていてくれたんですねー。・・・」
クロサワ「加古ちゃん、俺に何ができる?。話してみてよ・・・」
用件がなければ、何年ぶりかに電話をしてくる筈がない。こういう電話は即聞きがよかったりする。
加古「・・・・・・」 言い出せない様である。ちょっと深刻かも。
クロサワ「明日とか、飯でもどう?」
加古「いえ、いいんです。ちょっと、どうしてるかなって・・・」
クロサワ「よくないよっ。即アポは業界の決まりだよ。」
加古「クスンッ」(鼻声である)
なんか、まずそうだな、「即アポ」とかで笑いが出ないと、かなり深刻かも。
(クロサワは、基本的に夫婦喧嘩と、悩み相談は食わない。が・・)
クロサワ「今から、合うか?」
確か彼女とは、吉原の高級店で働き始めたと電話で聞いたのが最後だ。
クロサワ「今どこ?職場?」
加古「・・・あの、そうです。今日で上がるんです。」
彼女は泣きはじめた。
これは、直接会った方がいいと思った。とりあえずタクシーをひろう。
クロサワ「加古ちゃん、次、入ってんの?」
加古「(泣)今日はフロント入れてきません。」
クロサワ「わかったよ。俺、行くから、予約入れてよ」
加古「ええっ~!」
クロサワ「もうタクシーに乗ってるよ。吉原だよね?」
加古「無理ですよ。(泣) ここは、薄野です。」
えっ!、吉原から札幌に移ったのか?。それはキツイ!。
しかし、「上がる」からには・・・。タクシーの時計は18時。
札幌行きは便数が一番多いし、なんとかなると考え、運転手に羽田行きをたのむ。
クロサワ「加古ちゃん。予約はオーラスで!今、向かっているから」
加古「うぇーん」(号泣)
クロサワ「予約、大丈夫? 折角いったのに、入れなかったらヤダよ」
加古「ありがとう・・・。」
加古は泣きながら、上がる理由を話した。
札幌行きの飛行機の中、加古のトラブル(AV女優ならではの様々なトラブル等、ここでは書けない)を思い出していた。