オフィスには、こんな電話もかかってくる。
「あの、AVを撮影してもらえますか?」
その男は、船井(58歳)と名乗り、奥様とのセックスを撮影して欲しいという。
ていよく、断ろうとしていたが、奥様との事を熱く語りだした。
従順で、スタイルよく、とにかくかわいい・・・若妻なのだと。
ここまで、嫁さんを褒めるとは、かなりのゾッコンで、それなのになぜ、撮影しようとしているのか?
船井「妻は、長くないんです。・・・」
クロサワ「? ご病気か何かですか?」
どうやら、生涯の記念にAVとして残すのか?ただ、撮影だけではウマミもない。他をあたってもらおう。
クロサワ「残念ですが・・・」
船井「妻はまだ18なんです。!」(これは驚いた。40の年の差か!)
船井「費用は出します。!!!お願い・し・ま・すっ。」
イキナリ興味が涌いてきた。
クロサワ「それでは、一度ご夫婦で打ち合わせを・・・」
船井「次の土曜日、私の軽井沢の別荘で撮影してください。!」
有無を言わせぬ迫力である。奥様の容態はそこまで悪いのか?
それより、そんな危篤状態でセックスができるのか?
そんな思考中に、
船井「300万円で、なんとかお願いします!」
クロサワ「わかりました!。」 思わず言ってしまった。
電話を切って暫くするとFAXが来た。まあ別荘も持っている方だから別にヤバくはないだろう。と気楽に思い、機材の準備に入った。
土曜日は大雨と渋滞で、別荘への到着は午後になった。
船井「遠いところ、ありがとうございます。妻も喜んでいます。」
そういいながら、応接に通されると、テーブルの上には300万円が積んであった。
船井「あ、すいません。裸のままで、お確かめください」
クロサワ「あ、はい。テープをお渡しする時で結構でしたのに・・・」
と言いながらバッグに詰めた。
クロサワ「じゃあ、早速ですが、段取り入りますが、その間に奥様のメイクを。うちのヘアーメイクです。」
H&M「はじめまして・・・奥様はどちらに?」
船井「妻のメイクは私がやります。」
クロサワ「そこまで、お体の具合が悪いんでしょうか?」
船井「まあ・・・いろいろ。 あの、監督さん、」
クロサワ「はい。」
船井「逃げないでくだいよ。妻を見ても」
えっ?。どういう意味だ?。18歳の薄命な若妻なのでは?
それとも、病気が進行して・・・ クロサワはちょっと固まったが、クロサワ「お仕事としてお引き受け致していますので、どの様な状況だろうと、撮影は行います。」
船井「ありがとう。妻も、きっと喜びます。」
2階のメインベッドルームに撮影の準備が整ったのは、外も暗くなった頃だった。
クロサワ「船井さん、準備できました。」
船井「皆さん、ありがとうございます。それじゃ、これから始めますが私の場合、いつも妻とは明け方までしていますので、よろしくお願いします。」
えっ? スタッフ一同顔を見合わせる。確かに撮影時間までは聞いていなかったが、まさか明け方までヤルとは・・・何パツやるんだ?
しかも、2カメ回すからテープもギリギリだなっ。
船井「妻を連れてきますが、恥ずかしいので暗くして欲しいと言ってます。」
あらら、するとリーファも撤収か。(リーファ:照明)
船井「それと・・」こんどは何だ?
船井「この撮影は監督さんだけでお願いします。」
えーっ!。それは聞いてないよ!
クロサワ「いや、船井さん、朝まで撮るのでしたら、テープチェンジも
必要なんで、2カメ つまり、2台以上のカメラを同時に回さないと・・・」
船井「あー、そうなんですが、それじゃ台に乗せといたらどうですか?」
クロサワ「三脚ですか?」
船井「大人数だと気が散るんです。静かに見届けて欲しいんです。」
クロサワ「わかりました。クライアント様がそうおっしゃるんでしたら」
私以外のスタッフは全て近くのホテルに撤収した。外は大雨である。
ワンマンで、撮影できる様に段取りをし直し、スタンバる。
クロサワ「それじゃ、1分後に入ってきてください。どうぞ~!」
1台は三脚で、もう一台を肩に担いだ。部屋はベーカムで撮影できる限界の明るさだ。(ベーカム:ベータカムSP 業務用カメラの呼称)
私は、部屋の片隅で、主役の登場を待った。
キーコ、キーコ、キーコ。
バタン。
車椅子に乗った奥様が登場した。
キーコ、キーコ、キーコ。 錆びた車椅子がキシミ音を立てている。
ご主人は、車椅子をベッドの横につけると、奥様を抱き上げ、そっとベッドに横たえた。
ご主人が「愛してる。」と、優しく語り掛け口づけをする。
後編につづく