17日(金)、見慣れない携帯番号の着信があった。
出てみると、「お久しぶりです。」との声。電話の声から彼女の顔は思い出せなかったが、近くにいるとの事で、渋谷○急の東館屋上で14時に待ち合わせた。
めったに行った事がないが、エレベータの直通はなく、7階から階段で屋上に出ると、小さな遊園地みたいになっている。
折角きたので、携帯で写真をとって(画像添付)あたりを見回していると子供をつれた女性が会釈をしながら近づいてきた。
「こんにちは、お忙しい所スミマセン。」
彼女の笑顔を見て、「美穂」という名前を思い出した。
美穂は、もともと田舎で高校卒業と同時に結婚したらしいが、子供が産めない体だとわかると、離縁されたらしい。
そうなると地元にはいられないらしく、東京に出て服飾関係で働いていたが給与が安かった事もあり、たまたまAVスカウトされ企画物に出演する様になった。
クロサワ「どうしてた? 元気そうでよかった。」
美穂「連絡できなくてスミマセン」
クロサワ「別にいいよ。」
美穂「今日は、監督に借りてたお金持ってきました。」
クロサワ「もう、貸してたのなんて、忘れてたよ」
美穂「それと、お別れを言いに・・・」
クロサワ「えっ?」
美穂「田舎に帰る事になりました。」
クロサワ「そっか~、それはよかった。」
当時の美穂は、子供が出来ない体という事で、中出しもやっていた。
たまたま、うちの現場で、気分が悪くなったので、病院に行ったら妊娠している事がわかった。
美穂の体で堕胎すると、次は間違いなく子供が出来ないと医者に言われた。悩んでいるうちに、決断をしなければならない時期が来た。
美穂「誰の子かわからないんです!」
クロサワ「誰の子かわからない? 何言ってんだっ。!」
クロサワ「お前の子供に決まっているだろ。 お前が親として決断しろ」
美穂「どうしたらいいですか?」
クロサワ「お前はどうなんだ?」
美穂「・・・産みたいです。・・・でも、生まれない方がいいかも」
クロサワ「どちらかを選んだなら、反対のことは考えるな、今、美穂が選んだ道が、ベストの選択だ」
そして、美穂からの連絡が途絶えた。
彼女に手を引かれた男の子が、じっと私を見ている。
しゃがんで、「こんにちは」と話しかけると、お母さんに似た笑顔になった。
クロサワ「かわいいな~」
美穂「ありがとうございます。私の、私の息子なんです。」
クロサワ「笑顔が、君にそっくりだよ!」
美穂「はい。あの時産んで、本当によかったです。」
美穂は、産むほうを選んでいたのを5年以上経た今、知った。