明日から北海道に行くことにした。
クロサワのブルーな気分と反対にナナコは大喜びである。
北海道に行くのがブルーなのではなく、今回、行こうとしている「釧路」に行くのが、とても気が重い。
ナナコのはしゃぎを見ていると、秘密を持ったまま旅行に行くのが心苦しくて、話すことにした。
クロサワ「ナナコさぁ、俺は釧路に住んでた事があるんだよ・・・。」
ナナコ「へぇー、じゃあ案内してね!」
釧路は、北海道の東部にある都市で、旅行中に立ち寄っていた。
夜、飲み歩いていて、次の店を探している時に、たまたま公衆電話に張られた広告が気になり、その中のオレンジボックス(今もあるかなぁ?)に行ってみた。
そこは民家だった。
あたりは、人通りもまったくないが、裏口からどうぞとあるので、裏口に回ってみる。
個室に入って、待っていたが、何の変化もないので、いつの間にか寝ていた。
多分、寝ていたと思うのは、次に気づいたのが電話のベルだったからだ。
クロサワは、眠たい中、電話に出た。
クロサワ「もしもし、クロサワです。」
相手「・・・ くすくす。!」
クロサワ「は? クロサワですけど。」
相手「クスクスクスッ。」 (どうやら笑っているらしい)
クロサワ「どちら様ですか?」
相手「はははっ、あ~ おかしい。」
クロサワ「えっ?どうしたの?」(クロサワは寝ぼけていた)
相手「あっ、ゴメンナさい。 だって、ここでそんな丁寧な話し方する人いないですよぉ」
それが、彼女との出会いだった。
かなり長い時間楽しく話していると、突然、扉をたたかれた。
店主「お客さん、そろそろ閉店です」
クロサワ「あ、はい。」
クロサワ「閉店だっていうので、そろそろ帰るね」
相手「長い間ごめんなさい・・・本当は、合う人とか探してました?」
クロサワ「いや、別にそんな事はないけど。」
相手「また、話せるかなぁ」
クロサワ「話せるといいね。ははは。」
相手「またそこに、来ますか?」
クロサワ「多分、こない。ははっ。」
相手「じゃあ、話せないっしょ」
クロサワ「じゃあ、携帯番号教えとくよ」
相手「???」
クロサワ「**-*****、頭に030か040をつけてね」
当時は、携帯番号が 7桁で頭に030か040(発信地と携帯
電話の所在エリアによって異なる)をつけていた。
相手「本当に、つながるの?」
クロサワ「持ち歩いているから、いつでも掛けて」
相手「明日、かけちゃうよっ!」
クロサワ「今からでもいいよ」
相手「えっ?」
クロサワ「もう、店を出るから、この電話切ったらすぐに掛けてよ」
相手「うん。絶対すぐに掛けるよ」
クロサワは電話を切ると、店の外に出た。
オレンジボックスの前には陸橋があり、クロサワは多少でも電波がよさそうな橋の上へと移動した。
ピピピピピッ。 携帯(ショルダーホン)がなる。
クロサワ「はい。クロサワです。」
瞳「あ、もしもし。瞳です。」
クロサワ「ほら、すぐにつながったでしょ?」
瞳「本当に?、外なの? どこにいるの?」
クロサワ「まじに外だよ。今、オレンジボックスの前の橋の上」
瞳「何が見える?」
クロサワ「遠くに、釧路駅かな? あと、すごい星空が見える。」
瞳「星空?」
クロサワ「そう、東京じゃ見れないよ、こんな星空」
瞳「いつ、帰るの?」
クロサワ「明日というか、もう今日だね。」
瞳「そっか~寂しいな。・・・」
クロサワ「じゃあ、逢おうか?」
瞳「えっ?。・・・」
結局、その時は逢う事はなかった。
・・・
ナナコ「もしかして、釧路に行ったときに、瞳さんと会うの?」
クロサワ「うーん・・・。」
ナナコ「瞳さんは今、釧路にいるの?」
クロサワ「そうだねー。 居ると言えばいるなぁ。」
ナナコ「なんか、なんか、・・・ 逢っちゃいやだよぉ。」
クロサワ「ナナコさあ、俺は瞳と逢いたいんだけれど、そんな
んじゃないんだよ。」
ナナコ「もういいよ・・・。逢っても・・・。でも。」
クロサワ「?」
ナナコ「北海道で、ナナコを一人ぼっちにしないでね。」
クロサワ「わかったよ。いつも一緒にいるから。」
ナナコ「瞳さんと逢うときも?」
クロサワ「ああ、ナナコがよければ。」
ナナコ「よかった・・・」
ナナコは旅行の準備をし、今、風呂に入っている。
つづく