京子が泣きながら電話してきた。
大好きなお婆ちゃんが亡くなってしまったらしい。
お婆ちゃんは京子の面倒を誰よりも見ていたので、最後のお別れを言いに行きたいという。
しかし田舎では、京子がAV女優というのが知られており、ひとりではどうしても行きたくないという。
京子「クロサワさん、お願いします。一緒に行ってください。(泣)」
クロサワは、京子が可愛そうなので、一緒に行ってあげる事にした。
新幹線の中では、京子が子供時代の話を聞いた。相当なイジメに合い、お婆ちゃんだけが支えだったと。
約2時間ほどで、終着駅のアナウンスが流れると、京子は緊張しながらクロサワに言った。
親族の死というのが、初めての経験で、今までお葬式にも出たことがない。まして東京に出てきてからは一度も帰っておらず、久々の帰省になると・・・。
斎場につくと、かなりの人数がいた。
親族は、京子が来たことを見つけると、嫌そうな顔をしている。
参列の若い男性たちは、京子の事を見て楽しそうに話している。
京子は、お婆ちゃんの顔を見ながら最後のお別れを小声でつぶやくと棺に小さく手を振り、会場の出口へと向かった。
京子の礼儀ある態度と潔ぎよさに、親族の中から声がかかった。
「○○ちゃん、お焼香・・・どうぞ。」
会場内が静まり返り、クロサワと京子は立ち止まる。
二人が同時に振り向くと、焼香台の参列者が、道をあけてくれた。
周囲の視線を全て集めて、京子とクロサワは焼香台に向かう。
クロサワは、香をひとつかみすると、額にあて炉にくべた。
お婆様の冥福をお祈りしつつ、3度目の香をくべようとした時。
京子が大泣きした。悲鳴ともいえる様な声で。
斎場の中に、京子の叫び声がこだまする。
「ごめんなさいー」
今まで我慢していたものが、全て吹っ切れたのか。
「ぎゃあーっ。っっっっっ!」
会場の冷たかった視線は、京子の叫びで、暖かいものへとなり親族の中には、つられて涙ぐむものさえいた。
京子は、肩で息をしている。
クロサワは、黙って横の京子の焼香が終わるのを待っていた。
そして、京子は香をつまむと、叫びながらオデコに持って行く。
その時、クロサワは異変に気づいた。
京子のつまんでいる香から、煙が出ている。
なんと、京子は火のついた香炉の方に手を入れていたのだ!
「ごめんなさいーっ!!!!!!」
ひときわ大きい叫びが、斎場に響いた。
クロサワは、京子を抱える様にして会場を後にした。
新幹線の中、「お焼香って、すごい熱いのね・・」と、水ぶくれになった指を見て嘆く京子が、たまらなく愛しかった。